彗星舎story02

Story 02 | 眠れない夜に

前職は、半分向いてて、半分向いていない仕事でした。

経理、税務、総務、労務、イベント運営、書類の作成、保険など、いろんな業務をやらなくてはいけなくて、ひとくくりに事務といってもお客さんとも関わりの多い仕事でした。

世渡り上手で、マルチタスク型の人が得意な仕事。

でも経理の仕事は性に合ってて好きだったし、こんな私でもお客さんに頼ってもらえたり、安定はしていました。

休日は美味しいごはんも食べに行けるし、旅行もライブも好きなだけ行ける。

遠出するのに特別気を遣う相手もいない。特に不自由はない。

でも代わりに充足感もない。

「好きなものだけに囲まれた雑貨店をやりたい」という想いだけが、頭の中でぐるぐるとまわりながら、行動に移せない自分がいました。


前職で唯一時間を忘れて没頭できたのは、チラシや会報誌をつくる仕事。

業務の中ではかなり優先度が低い仕事。

でも「会報誌見て、気になって来てみたよ」「チラシ見たんですけど」

その言葉を聞けたときが、本当に嬉しかった。


そしてその業務と経理・事務以外の仕事は苦手ながらもなんとかやっていました。


苦手な業務をごまかしながら、なんとか8年。

けれど職場の環境がガラリと変わり、一気に残業や責任が押し寄せてきました。

他人に言わせれば「そんなこと」でも、私にとっては心が擦り切れるような苦手なことばかり。

退職を決めたけれど、「年度末までは迷惑をかけずにやり切らなきゃ」と自分を縛り付け、毎日トイレで泣いていました。

「これは避けてきた自分のツケ。自業自得だ。」

誰にも頼れず、ただただ早く解放されたかった。

毎日に精一杯で、やめてからのことは何も考えられていませんでした。


ある眠れない夜、ベッドの中で、ふと頭をよぎりました。

「私は何のために生きているんだろう」
「本当にこのままでいいのだろうか」

ただ今の苦しさから逃げたくて、ずっと考えることから逃げていました。

だけど、これからのことも考えなきゃ。
転職するにしてもこのままだとまた同じになってしまう。とも感じていました。

どうしたらいいか分からずに、その夜眠れずにずっと考えていたわたしは、自分のことを全く知らない第三者に相談することを決めました。

不安混じりで予約ボタンを押す。
これで何か希望が見えることを、少し期待しながら。


相談当日。

その時の私は本当に覇気がなく、うつうつとしていて、自分のことなのにどこか他人事のようにしか話せませんでした。

一通りのやりとりが終わり、私の生気のない反応を見兼ねたのか、その人は少し呆れたような声で私に尋ねました。

「何か好きなこととかはないの?」

好きなこと。好きなこと。

好きなものはたくさんある。それで雑貨屋をしたいと思ったのだから。

でもその時のわたしは、好きなものを色々と忘れかけていたように思います。

好きなこと。好きなこと。

自分に問いかけるように言葉を反芻しているうちに、暗闇の中に一筋の光が差し込むように、ひとつの言葉が浮かびました。

「デザイン……好きかもしれないです」

文字の大きさや間隔を調整している間だけは、時間を忘れられたこと。
作ったものを喜んでもらえた時が、一番嬉しかったこと。

その瞬間に初めて「仕事としてのデザイン」が頭に浮かびました。

「ああ、とってもいいじゃないですか。」

根拠のないその一言に背中を押されて、私はその日のうちにデザインスクールの資料を請求しました。

できる根拠もない。
自信もない。

でも一度きりの人生。
好きなことをやってみよう。

「そうだ。まずデザインを勉強して、いつか開く自分の店のロゴも、ショップカードも、世界観ぜんぶを自分でつくろう。」

あんなに自信がなかったはずなのに、なぜかそこだけは、迷いなく自分の道が見えていました。